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REVIEWレビュー

アートの特性を活かす教育

県立鯖江高校「文化芸術アカデミー」という県教委の企画をご存じだろうか。本県ゆかりのアーティストや文化人を県内の学校に派遣し、他の教科にはない方法で生徒たちを直接指導、「多様な価値観」や「感性」を育成することが目的で、今年で三年目の試みという。文化芸術活動に取り組む小中高校生たちには、技術指導や意欲向上を図るため、意義あるプログラムと思う。

僕がこの企画で、十月末に講師として招かれた県立鯖江高校は、一九九七年の創立八十五周年を機に、校内に現代美術家の作品をコレクション展示するなど、教育環境において、アートを意欲的に取り入れてきた学校である。

そこで僕が行った授業は「素材と空間の可能性」をテーマに、学校を舞台に、教室内の机や椅子、棚やダンボールなど、学校にあるさまざまな素材を使って、自分たちオリジナルの空間を創造する授業内容であった。

本来、美術の授業とは、机やイーゼル(画架)上での作業がほとんど。しかし鯖江高校の生徒たちは、常日頃、担当美術教諭より実践的トレーニングを受けているのであろう。限られた時間の中で、積極的に空間とかかわり、自由で独創性の高い、さらに造形的にも優れた作品を作り上げてくれ、僕としても満足な授業となった。

最近では、国内の教育現場でも実験的な試みではあるが、アーティストが独自な授業を行なうケースが見られるようになってきた。この動向は、九十年代から盛んとなった福祉・公共施設での「アウトリーチ活動」と関連し、芸術や文化が子供たちの健全な育成、創造的活動にどのような役割を果たせるのか、教育側から芸術の持つさまざまな可能性を見据えた取り組みであり、各地で活発化してきている。もともとアウトリーチ活動とは、音楽家や美術家が、地域の施設に出向いて、コンサートや展覧会、ワークショップを行なうことである。このような活動の背景には、芸術に触れる機会の少ない市民、または高齢者の方々に、芸術と触れるチャンスを少しでも多く持ってもらうための活動である。

県立鯖江高校これまでもアウトリーチ活動の成果は、いたるところで立証されてきた。例えば、ダンスや演劇のワークショップで若さを取り戻す高齢者や、引きこもりで学校に行けない生徒が、美術のワークショップで自分に自信を取り戻し、普段とは違うポジティブな表情・態度に変わっていくことは、いくらもあることである。

さらに最近では「アートの可能性を活用した、新しい教育活動プログラム」も登場し、直接学校にアーティストが派遣され、アーティストの独自な能力を活かし、生徒たちの潜在能力や創造力を引き出し、ものの見方や考え方、表現方法など、問題・疑問への解答が決して一つではないことを学んでもらうのである。さらに、このような活動は、生徒たちに生きるうえでの選択の幅を増やし、人間として「生きる力・創造の喜び」を育むための試みでもあるのだ。

世の中に閉塞感が蔓延する昨今、社会は個人の新しいアイデアの創出能力に期待をかけている。このことは、創造力こそ未来の可能性への基本的な力であり、若者のオリジナルな創造能力開発への取り組みには、アートの特性を活かした創造的教育が、今後欠かせないテーマとなるのではなかろうか。

寄稿 福井新聞 2008年12月1日 掲載記事

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